非弁膜症性心房細動患者に対する抗凝固薬の検討 その評価はCHADS2スコアだけで十分か?

非弁膜症性心房細動患者に対する抗凝固薬の検討 | その評価はCHADS2スコアだけで十分か?

CHADS2スコアとは

CHADS2スコアとは、心房細動を持つ方へ脳梗塞予防目的に抗凝固薬を使用するかどうかを決める指標となるスコアで、「心不全・左心機能不全」、「高血圧症、年齢75歳以上」、「糖尿病、脳梗塞・一過性脳虚血発作の既往」の5項目で構成されています。国家試験にもこのCHADS2スコアの知識を背景にした問題が散見されるので、大多数の方は見たことはあると思います(研修医以上で聞いたことなかったらヤバイ!!)。いずれにしても、心房細動持ちの患者に対してこのCHADS2スコアを使って抗凝固薬の適応を決めていくことになるのですが、実際に使ってみると色々と迷いどころが出てくるわけです。

今回はそこについて触れていこうと思うのですが、とりあえず、まずはCHADS2スコアを見てみましょう。

C:Congestive heart failure / LV dysfunction心不全, 左室機能不全1点
H:Hypertension高血圧症1点
A:Age≧75y年齢75歳以上1点
D:Diabetes mellitus糖尿病1点
S:Stroke/TIA脳梗塞, 一過性脳虚血発作の既往2点

上の表を見たらわかるように、CHADS2スコアは「脳梗塞, 一過性脳虚血発作の既往」だけ2点、他は1点の計6点満点のスコアです。

上記の通り、これを使用して抗凝固薬を使うかどうか決めていくんでしたが、その前に「不整脈薬物治療ガイドライン2020年改訂版」で心房細動に対する薬物療法の適応が変わりましたので、そちらを先に見ていきましょう。

抗凝固薬の適応

(参考)日本循環器学会/ 日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン p49

すごく簡単に前回のガイドラインとの変更点を解説すると、以前まではCHADS2スコア1点の症例に対しては、DOAC含めた抗凝固薬の使用は「考慮可」とされていましたが、今回のガイドラインでは、CHADS2スコア1点の症例に対しては基本的にはDOACが「推奨」となりました。一方で、依然として1点の患者へのワルファリンの有効性は確立されていません。ここはしっかり押さえておきましょう。

ここで少し休憩。ここまで心房細動と表現してきましたが、CHADS2スコアで抗凝固薬の適応を評価するのは「非弁膜症性心房細動」の患者に限られています。「弁膜症性心房細動」の患者はCHADS2スコアにかかわらず、ワルファリンですので注意してくださいね。このあたりの詳細は上記のガイドラインで確認してみてください。

話は戻って、今回のガイドラインの変更で、CHADS2スコア1点以上の患者には基本的にはDOACが推奨となることをお話してきました。では、CHADS2スコア0点の人に対してはどうすれば良いのでしょうか。何も考えていないと、「CHADS2スコア0点なので抗凝固薬は処方せず」なんていうようにしてしまいそうですが、ここでもう少し考えていく必要があるのです。

実は、非弁膜症性心房細動の中でCHADS2スコア0点に該当する人は、10数パーセントを占めるといわれています。このうちのほとんどの人は脳梗塞を発症しないのですが、脳梗塞を発症した人に限ってみてみれば、発症前のCHADS2スコアが0点だった症例が7%程度と決して少なくありません。

こう考えると、CHADS2スコア0点の人に対して一概に抗凝固薬は使用しなくてよいとは言えなくなってきますね。何かこの状況を解決してくれるいい指標ないものでしょうか。

ここで、登場するのが、CHA2DS2-VAScスコアです。

CHA2DS2-VAScスコアとは

これは、CHADS2スコアと比較して、真に脳梗塞リスクが低い人を検出することに長けているスコアです。実際に、欧米ではCHADS2スコアではなく、このCHA2DS2-VAScスコアが使用されているそうですが、CHADS2スコアと比較してやや煩雑な面がありますので、日本ではそのあたりが考慮されて最初はCHADS2スコアで評価することが推奨されています。

CHA2DS2-VAScスコア

(参考)日本循環器学会/ 日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン p46

CHA2DS2-VAScスコアはCHADS2スコアに加えて、血管疾患、年齢(65-74歳)、性別(女性)を加えたスコアです。日本では性別(女性)の項目を除いて、これが0点だった場合は抗凝固薬の副作用が脳梗塞の発症リスクを上回るため、抗凝固薬は使用する必要はないとされています。また、CHA2DS2-VAScスコア2点以上の人は、抗凝固薬の使用が推奨されます。

ここで、また疑問が浮かびますね。じゃあ、CHA2DS2-VAScスコアが1点の人はどうするんや?と。そこで、またまた新しく登場するのが、HAS-BLED スコアです。

HAS-BLED スコアとは

CHA2DS2-VAScスコアが脳梗塞低リスク群を検出するのに有能だったのに対して、HAS-BLED スコアは出血リスクを評価するスコアです。CHA2DS2-VAScスコアで低リスク群かどうかを評価しても抗凝固薬の使用が決まらない場合は、最後は出血リスクを判断して、抗凝固薬を使用するかどうか決めていきましょうということです。

HAS-BLED スコア

(参考)日本循環器学会/ 日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン p50

ちなみに、HAS-BLED スコアは3 点以上を出血高リスク群としており、抗凝固薬は推奨されません。とはいってもHAS-BLED スコアが2点以下の人に抗凝固薬の処方をするかどうかは最後は臨床判断になりますので、結局のところこれですべてが解決するわけではないのですが、、、。

ここでは、非弁膜症性心房細動の患者に対しての抗凝固薬の使用についてザックリと解説してきました。少しでも参考になれば幸いです。

こんなんじゃ足りないよ!もっと詳しく知りたい!という方は、是非「2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン」を参考にしてください!めっちゃくちゃ詳細に解説されています。