まずは頭部CT
原則ですが、くも膜下出血は診断の遅れがそのまま予後に繋がってしまうため迅速かつ的確な診断が必要となる疾患です。
別の回で説明したように突然の「今まで経験したことのないような」頭痛や、意識障害などのくも膜下出血を疑う症例に出会った際には、まずは頭部CT!と考える習慣を身につけましょう。頭部CTってなんだ?と思われる方もいると思いますが、要は頭の中の構造を輪切りにして見ることができる検査のことです。この検査は出血を検出するのに有用であるとされており、脳出血、くも膜下出血などの診断の際には重要となりますので、まずはCTを撮ることが推奨されます。
典型的な所見としては、原因の80%以上を占める脳動脈瘤の破裂による場合、脳底部脳槽のくも膜下腔などに貯留した血液を反映して、ヒトデ型の高吸収域(CT上で白くうつる部位のこと)を示します。ここでもまた「脳槽」という聞きなれない言葉が出てきましたね。簡単に説明しますと、脳槽というのは、脳脊髄液が流れる脳室という空間の一つです。脳脊髄液は水様透明な液体のことで、詳しくは解明されていませんが、脳の水分含有量を調整し、形を保つ役割を果たしていると考えられているものです。この脳脊髄液が、側脳室ーモンロー孔ー第3脳室ー中脳水道ー第4脳室ールシュカ孔・マジャンディー孔ー脳槽ー硬膜静脈洞という順番に脳室を流れていきます。つまり、脳室という空間の下の方に流れて溜まった血液を私たちはCT画像を通して見ているというわけです。
頭部CTでわからないときは?
この頭部CTを撮っても診断することができない症例も中にはあります。というのも、流れ出た血液が固まってできた血腫が高吸収(白くうつる)ではなく等吸収(脳と同じぐらいの濃さでうつる)であったり、脳幹部の腹側や大脳半球裂といった脳の部位に血腫ができていたりなど、少し特徴的ではない場所に限局していたりと診断が難しい例も存在するからです。
このような症例は発症から数日経過したものに多く、発症後24時間以内だとCTでの診断感度(CTでくも膜下出血であると診断される割合)は良いのですが、6日後では感度が57-85%にまで低下すると言われています。
そのため、発症から数日経過しているような症例では慎重にCTを読影する必要があり、その結果、くも膜下出血の所見が見られなくても、明らかに疑う場合には腰椎穿刺やMRIまで行わなければなりません。
腰椎穿刺とは、腰の骨と骨の間に針を刺し、そこから髄液を採取し、その性状を確認するものですが、この検査で髄液が血性であったり、黄色調であったり(キサントクロミーと言います)すると、くも膜下出血に特徴的であるとされています。注意点としては、皮膚に針を刺して行う検査であり、その際の出血が混じることであたかも血性の髄液に見える場合もあるので、そのことは念頭に置いておくべきですね。
MRIでは、くも膜下出血はFLAIR(簡単に言えば、脳脊髄液が黒くうつるように調整したもの)というモードで高信号(白くうつる)として描出されます。このMRIも注意が必要な場合があり、少し時間がたった症例はこのように描出されますが発症すぐであれば高信号とならない場合もあります。また、MRAという血管を評価するモードでは、脳動脈瘤の大きさが5mm以上であれば診断可能であり、造影剤を用いず低侵襲かつ後述する脳血管造影検査(DSA)に近い検出率であることからスクリーニングで使用されています。
くも膜下出血と診断されたら、次は原因の精査!
これらの検査では、くも膜下出血の診断はできますが、出血部位がどこであるのかを確認をするのは難しいため、CTの後に造影CT検査(3D-CTA)や脳血管造影検査(DSA)が行われることが多いです。
3D-CTAやDSAは共に造影剤という薬剤を用いた検査で、造影剤を使用することで画像に白黒のコントラストができ、より画像が見やすくなります。この薬剤は血液に沿って流れていくため、血管が破れて出血している場合には、そこから造影剤が漏れ出ていることを確認することができますし、この造影剤の流れている部分を見れば血管の走行を把握することができます。わかりにくい方に向けて、身の回りのもので例えれば、山に夜景を観に行った時に、真っ暗なのに車のライトで街中の道路がどのように走っているかわかりますよね。造影検査で言えば、ライトが造影剤で道路が血管です。この記事を書きながら思いついたんですが、これすごい良い例えですよね。今度から患者様に説明するときはこの例えで話してみます。なお、造影剤は腎臓で代謝されるものなので、腎臓の機能がどれだけあるのかは検査の前に確認する必要があります。
CTAは右腕に取った点滴のルートから造影剤を注入して行うもので、CTを撮影した後にそのまま行うことができるというメリットがあり、手技としても非侵襲的かつ簡略で、短時間で行うことができるものです。また、脳動脈瘤の検出能はDSAと同等であり、外科手術を行う上での情報がDSAより優れているとの報告もあります。
一方、DSAは足の付け根あたりの動脈に針をさし、それを通して管をいれ、その管から造影剤を流し込むといった侵襲的な治療ですが、CTAで診断に至らなかった例や、動脈瘤が発生した血管(母血管)、その近くから出ている細い血管(穿通枝)の評価など、状態が安定した後に行うクリッピングやコイル塞栓術の治療選択の際に重要となります。AHA/ASAガイドラインというアメリカのガイドラインでも治療選択の際にはDSAが推奨されています。
CTAとDSAに関してですが、ある報告では動脈瘤によるくも膜下出血の症例のほとんどは3D-CTAのみで診断可能であったが、中には3D-CTAの後に行ったDSAにて診断が可能であった症例もあり、2回目のDSAで診断が可能であった例やそれでも出血源が特定されなかった例もわずかながら認めたとされています。
また、2mm以下の小さい動脈瘤の診断はCTAでは困難であるとされており、その場合はDSAが有効的であるとも言われています。
出血源不明のくも膜下出血
余談になりますが、検査を行うも出血源が不明な、くも膜下出血はCT画像の所見から、perimesencephalic SAH(PM-SAH:中脳周囲くも膜下出血)とnon perimesencephalic SAH(NPM-SAH:非中脳周囲くも膜下出血)に分類されます。
PM-SAHは喫煙がリスクファクターであると言われており、また良好な経過をたどることが多いとされています。そのため、繰り返しDSAを行う必要がないとの報告も認めていますが、一方で2回目のDSAによい破裂小動脈瘤を特定できたとの報告もあり、繰り返しの精査も必要であるとの報告もあります。ただし、この報告でも3回のDSAで出血源を同定することができたという報告は認めなかったとされています。
NPM-SAHではDSAが最も優れた検査であるとされており、DSAを行うことを推奨されています。こちらも同様に3回以上のDSAは有用でないとの報告があります。
初期診療におけるくも膜下出血の見逃し
初期診療において診断されなかったくも膜下出血に関する多施設でのある報告では、診断されなかったくも膜下出血 計579例の内、27%に再出血で起こり、11%が亡くなったとされています。全体の58%である335例で初期診療の際にCTやMRIなどの画像検査が行われていなかったと報告されています。
また、初診時に熱中症であると誤診された症例報告もあります。熱中症は暑熱環境で身体が適応できずに起こる状態のことであり、症状として初期にはめまい、立ちくらみ、筋肉痛、大量の発汗を認め、進行すると頭痛、吐き気・嘔吐、倦怠感を、さらに進むと意識障害、痙攣、高体温をきたす危険な病気です。くも膜下出血と同様に頭痛や意識障害などの症状をきたしますが、くも膜下出血のような特徴的な頭痛ではなく、病歴として頭痛の様式を聴取することは非常に重要となります。それ以外にも脳卒中に関して言うと、FASTという簡易なスクリーニング法で脳血管障害を疑い、迅速に検査もしくは専門病院に紹介することも重要となりますね。
いずれにせよ、頭痛をきたす疾患の鑑別には、緊急性の高い、くも膜下出血などの脳血管障害を念頭に挙げ、まず精査するようにしましょう。
まとめ
くも膜下出血は現在でも死亡率の高い疾患の一つです。初期診療において、突然の頭痛など少しでもくも膜下出血を疑う症例では、できるだけ早期に頭部CTをとることを心掛けましょう。
ただし、中には臨床的にくも膜下出血を疑うが、CTで診断されなかった症例も存在します。これらに対して腰椎穿刺による髄液検査、MRI FLAIRが有用な場合があります。
診断の後の出血部位の同定には、CTAやMRA、DSAが有用であるとされています。以下に簡単にまとめておきます。
優れている点 | 劣っている点 | |
CTA | CTに続いて行うことができる 手技が簡略で非侵襲的 検出能はDSAと同等 | 2mm以下の小さい動脈瘤の診断は困難 |
DSA | 詳細な血管の評価が可能 脳動脈瘤の治療選択の際に有用 | 侵襲的 |
MRA | 低侵襲であり、スクリーニングに有用 DSAに近い検出率 | 5mm未満の小さい動脈瘤の検出は困難 |